チャーリーヘイデン程、異端なのにJAZZの真ん中に位置していたベーシストは他にいないと思っています。テクニックはとても最高とは言えませんが、目を瞑って真摯に聞いてみると素晴らしいスィング感、音程、音の選択であることが私の様な素人でも瞬間的にわかります。よく唄うベースソロ。見事な経過音。物語の構成。素晴らしい!
まずは、その運指、ピジカット、スィングのさせ方、メロディーの美しさのすべてが明確に分かる動画を見てみます。
これは彼のテレビに出演した時の様子を記録したものです。主なメンバー下記の通りです。
Paul
Motian on drums. Tom
Harrell on trumpet. Sharon
Freeman on french horn.
この演奏は、ヘイデン得意の民俗音楽、反戦のテイストがあるグローバルミュージックになっています。ヘイデンはオーケストラの最前面に出て、思う存分指揮をとり楽器を弾き倒しています。使用しているコントラバスはフルサイズの大きなものです。E、A線はスチール弦、D、G線はガット弦です。駒の弦高が非常に高く、E線などはネックから1cm以上、上にあるくらいです。とても疲れそうです。
ローポジションでは左手の押さえは小指をあまり使わない、やや旧式の運指です。右手は基本的に1ストローク、1または2フィンガーのシングルピッキングです。バッキング時の音の選択は実に分かりやすいですが、要所要所のアプローチノート、経過音は素晴らしく、さらにブルーノートらしき音(テンション含む)、クロマチックノート音列がここぞというタイミングで弾き出されます。でも、素人を唸らせる様な華麗なテクニックは皆無に見えます。むしろ駆け出しのベーシストでさえ「俺にもできそう!」と思わせる感さえあります。
ベースを大きく揺らし、とても楽しそうです。「あんなにベースをゆらして大丈夫?」と心配になりますが、目を瞑って聴いていると素晴らしいバッキングであることが分かります。
そういうわけで「見た目はスマートでは無いが、出てくる音、音楽は凄い!という不思議、かつ偉大なベーシスト」というのが正直な感想です。
次に高速4ビートで強烈にスィングする動画を観てみます。
これはロックの世界で有名なクリームのドラマー、Ginger Bakerと、ギターのBill Frisellによるトリオという珍しい編成です。1995年に開催された Frankfurtジャズ祭で録画されたものです。演奏曲はIn The Moment。
ヘイデンは最初からスピードある高速4ビートで演奏の基本環境を設定します。かなり速い4ビートですがヘイデンは2ビート基本の4ビート、つまり同一音を2拍ずつつなげることを基本に、無理なく音をつなげていきます。時々繰りだされるアプローチノートが格好いいです。ソロになるとガット弦の2本を中心にオクターブダブルストップ、5度和音ダブルストップを軸に不思議なサウンドを作りだしていきます。
そのあとジンジャーべーカーはずっと「火のついたたばこ」を口にしたまま不思議なソロを取ります。経歴をみますとジャズバンドで一時期ドラマーだったとのことすが、やはりJAZZ寄りの人間からすると違和感はあります。しかしこれはこれで素晴らしいのかもしれません。
結局、ヘイデンの高速かつ重厚なベースのおかげで、高度でスィングする音楽に仕上がっていると思います。
ヘイデンのベースを聴いていると「細かい音使いなんか要らないんだよ。そこで必要な音をシンプルに正しく弾けばいいんだよ」と言っている様な気がします。これはベースだけの話では無いですね。人生のあらゆる場面で同じことが言えますね。
因みに、奏法が対極にあると思われるスコットラファロとヘイデンは同じアパートにいて毎日ベースやJAZZについて議論したり演奏していたとのことです。その結果に全く異なるタイプの2人の偉大なべーシストが生みだされたことは大変不思議ですし、我々JAZZファンにはラッキーなことでした。
最後に、ヘイデンの出世作、というよりJAZZを大きく変えたオーネットコールマンのデビュー当時の演奏を聞いてみたいと思います。1959年録音で、曲はBlues Connotationです。メンバーはアルトサックス=オーネットコールマン、トランペット=ドンチェリー、ドラムス=エドブラックウェルです。
これはライブでは無くレコードが動画化されたもので動く映像はありません。
いまこれを聞くと「なんて素晴らしいJAZZブルースの演奏なんだろう!」と感嘆するばかりで、ほとんど違和感はありません。オーネット、ドンチェリーのソロは実に見事なストーリーと和音を持った名演です。でも、当時の多くの人は「こんなでたらめ!」と言っていたそうですが、信じられないですね。ライブの現場を見に来ていたレイブラウン、パーシーヒースは無言でうなずき新しいJAZZをヘイデンの演奏に見た、という話が伝わってきています。本物は本物を認める、というところですね。
これらの演奏が名演になった理由の、かなりの部分はヘイデンのベース演奏にあるのではないか、と考えています。物凄く「スィング」しています。つまり、ここでも「JAZZ、あるいは音楽はスィングしなけりゃ意味が無い」が真実であることが証明されているわけです。
ヘイデンさん、いろいろ教えて頂きありがとうございました。
チャーリーヘイデンさんのご冥福を心よりお祈りいたします。
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